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ニュース&レポート

特別インタビュー 神奈川県産JAS製材品を使った園舎が竣工 住宅設計の経験を中・大規模木造に生かす

このたび、神奈川県茅ヶ崎市において、学校法人平和学園様の幼保連携型の認定こども園が竣工しました。同物件は、延べ床面積約1,650㎡におよぶ木造建築物で、ナイスグループは構造設計や施工などで協力しました。今回は、同物件の設計・監理を担当された㈱洋建築企画の山口洋一郎代表取締役と清水智津子取締役に、同物件および中・大規模木造建築物における設計のポイントなどについて伺いました。

地域密着で人とのつながりを大切に

――㈱洋建築企画様は地元を中心に様々な施設を手掛けられていますね。

山口 当事務所は、1983年に神奈川県茅ヶ崎市に設立して以来、湘南らしいゆったりとした豊かな空間が感じられる設計を目指しています。同市を中心とした地域において、注文住宅をはじめ、美術館や音楽ホールなどの文化施設、福祉施設、医療施設、コミュニティー施設、宗教施設、商業施設など、地域のニーズに対応した様々な施設の設計を手掛けてきました。同市内においては、昨年度が4棟、累計で約100棟に携わり、周辺地域まで含めると、これまでに200棟近くを設計しています。認定こども園については、3月に竣工した平和学園様で3園目となります。

 地元にこだわり、貢献していきたいとの思いで、37年にわたって地域密着で活動してきたことが功を奏し、重層的に交流関係が広がっていると実感しています。

――2010年の公共建築物等木材利用促進法の施行以前から、木造建築物で多くの実績をお持ちで、教会などの宗教施設も得意とされていますね。

山口 人脈が広がっていく中で、ご縁があって教会の設計に携わりました。最初に手掛けたのは、2000年に竣工した「戸塚教会」です。建物自体は、延べ床面積が約120㎡程度の鉄筋コンクリート造ですが、小屋組みは木造とし、架構を現しとすることで、小さいながらも厳かで、訪れた人を優しく包み込む空間となりました。また、ここから更にご縁がつながり、2008年には延べ床面積約400㎡の木造3階建てとなる「磯子教会」を設計しました。建設地が不整形であったため法的な制限も多くありましたが、間口が広く奥行が狭い立地を生かし、集う人の一体感が感じられる礼拝堂となりました。

 海外では、2015年にネパールのポカラ市にて建築された「聖アンナマリア教会」の設計を担当しました。これも人とのご縁がつながったもので、お世話になった方が同市で福祉施設を運営されていたことがきっかけとなりました。地域や国などの法的な制約が多くありましたが、現地の材料と技術を生かすことを考え、木造と鉄筋コンクリート造のハイブリッド建築としました。建物の形状はダイナミックな八角形で、小屋組みの頂部にある「クーポラ」と呼ばれるドームにトップライト(天窓)を設けており、シンボリックな姿となっています。木造による大架構の小屋組みについて、現地では5mの短材の木材しか手に入らなかったため、短材をいかに組み合わせて14mのスパンを飛ばすかに苦心しました。この時の経験が、今回の認定こども園の遊戯室における大スパンの実現にも生かされています。

木で園児たちの記憶に残る場所に

――平和学園様の認定こども園は、㈱洋建築企画様が設計・監理を、大勝建設㈱様が施工を担当されており、ナイスグループは構造設計や積算、木材調達のほか、施工でも協力させていただきました。同物件における設計のこだわりなどをお聞かせ下さい。

清水 平和学園様は、同じ敷地内に認定こども園だけでなく、小学校から中学校、高校まで揃った、大変大きな学校です。このたび、認定こども園を新しく整備するに当たっては、児童や生徒たちが普段通りの学校生活を送れるように配慮すること、更に現状のこども園についても、プレハブの仮校舎ではなく、きちんとした教育環境を継続していきたいとの要望がありました。これらの点を踏まえて、建設地には敷地内の最も奥まった場所、正門のある市道側と反対側が選定されました。そのため、建築資材等の搬入も、児童や生徒たちに影響をおよぼさないよう、市道からではなく敷地の裏側の道路から行う必要がありました。更に、敷地に段差があったこともあり、資材や重機の搬入がしやすい点などを考慮して、木造での建築を提案し、採用されました。

――小屋組みのトラスが現しとなっており、大変印象的な空間となっています。

清水 この敷地は準防火地域にあり、木造建築物で延べ床面積が1,500㎡超となる場合、耐火建築物とすることが求められ、木材を現しで用いることなどに制限があります。しかし、設計を進める中で、学校側の要望を整理していくと、どうしても1,500㎡を超えるプランにならざるを得ませんでした。

 そのような中でも、この認定こども園がいつまでも記憶に残り、いつでも帰ってきたいと思える場所にしたいと考え、園児たちが集まる場所では木をふんだんに用い、安心感のある場所にすることにこだわりました。そこで、園庭に面した遊戯室を保育室棟から離して配置することにしました。メインとなる保育室棟が延べ床面積1,500㎡以下となるため、準耐火建築物とすることができる上、遊戯室棟については「その他建築物」の扱いとなり、防耐火上、自由な設計が可能になりました。

 一方、保育室棟は準耐火建築物となったものの、木材を現しで用いるためには、燃え代設計にする必要がありました。この場合、燃え代を確保するためにどうしても梁や柱が大きく、太くなってしまいます。そのため、小さな園児たちのスケール感に合わせつつ、いかにきれいに見せられるかが意匠上の課題でした。トラスについて、どのように組めばどの程度のサイズに収まるのか、スパンをどれくらい飛ばせるかなどを試行錯誤し、ナイスさんに相談しました。また、私は木造の美しさを表現するには、架構をいかに印象的に見せるかが重要だと考えていますので、保育室内ではできる限り筋交いを見せたくありませんでした。筋交いの方が目の位置に近いため、必要以上に気になってしまうからです。その点でもナイスさんに相談していくことで解決し、イメージ通りの室内空間を実現することができました(図1)。

――構造材については、神奈川県で製材業等を営む㈱市川屋様と連携し、神奈川県産のJAS製材品を提案させていただきました。

山口 神奈川県にはこれまでJASの認定工場がなく、県産材を非住宅の構造材に使用するのは難しいという認識で、そのため、県産材といえば主に内装材等に使用するのにとどまっていました。そのような中、今回は、42.64m3の神奈川県産のJAS製材品を柱や土台として使うことができました。園児たちが実際にふれるところに県産材を用いることができ、その点でも非常に意義がある事業になりました。

清水 また、木材は現在、持続可能な資源として積極的な利用が進められています。そのような中、非住宅に神奈川県産のJAS製材品を使えるようになったというのは、非常に喜ばしいことです。地域の活性化につながる材料を活用できるというのが、木造建築が持つ大きな可能性の一つであると思っています。

ひまわりの花のような遊戯室

――遊戯室は正十二角形という特殊な形状で、構造も特長的な造りとなりました(図2)。

清水 平和学園様はミッション系の学校ということで、キリスト教の十二使徒をイメージしてこの形にしました。遊戯室棟が「その他建築物」の扱いとなったことで、小屋組みの架構を現しにできるようになり、どのような組み方をすれば木を美しく見せられるかについて考えを巡らせました。結果、トップライトから梁を広げ、下から見上げるとまるでひまわりの花が咲いているようなイメージで伏せ図を作成しました。この小屋伏せ図を基に、いくつかの構造設計事務所に相談しましたが、実現できるとの返答をいただけたのは、実はナイスさんだけでした。これが、構造設計をお願いすることになった決め手です。構造力学的にどのように実現するのか、大変な苦労をされたと思いますが、製作金物を駆使しながら当初の構想通りに実現していただき、お願いして良かったと感謝しています(図3)。

 また、園全体を子供たちが走り回るようにするとともに、遊戯室については園庭との一体性を重視し、広く出入りができるような開放感のある設計としました。雨の日でも晴れの日でも、いつでも園庭の一部として使えて、遊戯室の中にいる園児たちだけでなく、園庭で遊んでいる園児たち、更には隣にある小学校からでも、遊戯室の中の様子に興味を持ってもらえるようにしたかったのです。そのため、耐力壁等の配置についてもこだわり、実現のためのプランを提案していただきました。

――園庭側を全て開口部とするために、構造耐力壁を最小限に抑えることを検討しました。その結果、建物全体の変形を抑えるため、筋交い付きラーメンフレームとして立体解析を行うという、木造ではなかなか見られない構造設計となりました。

木造住宅の良さを非住宅で発揮

――現在、国をあげて建築物の木造化・木質化が積極的に進められています。㈱洋建築企画様は、福祉施設など、様々な施設で多くの実績がありますが、施主様・事業主様の木造に対する意識はどのように感じていらっしゃいますか。

清水 発注者側の木造に対する意識は、それぞれの事情によって温度差があります。しかし、木造でご提案すると、発注者の先にいる利用者からは、間違いなく好意的な意見をいただきます。特に、福祉施設については、足を踏み入れた瞬間に「居心地が良さそう」と言っていただくことも多く、木造にしたいとの要望が増えていることに疑いはありません。例えば、茅ヶ崎市を中心にデイサービスなどを運営する㈱リフシア様からは、2004年に「リフシア萩園」を手掛けて以来、これまでに五つの施設について木造での建築を依頼されています。

山口 もともと、当事務所はこだわりを持った木造住宅を中心に設計しており、その点を評価いただいて「リフシア萩園」に携わることになりました。同施設をきっかけに、以降、中・大規模建築物を木造で建築する機会が増えました。

 当事務所の強みは、あくまでも住宅設計の経験がベースとなっており、これまで培ってきたノウハウを非住宅に注ぎ込んでいます。

清水 例を挙げると、ある木造住宅において梁背のある垂木を現しで並べて用いたところ、木造の良さが感じられ、美しく見せることができました。この経験から、中・大規模建築物にも応用できるのではと考え、「リフシア萩園」でもチャレンジしました。

 リフシアシリーズでは、当初から自宅に帰ってくるようなイメージで、居心地が良い場所にしたいという思いで設計してきました。2017年に竣工した「リフシア矢畑」では、中庭を介して二つのグループホームと一つの看護小規模多機能型居宅介護からなり、それぞれの暮らしが互いに感じられるよう、住まいをイメージして設計しました。

――多くの木造住宅の設計が基本となっており、これまで培われてきたノウハウが非住宅に生かされているということですね。

木造建築が地域の活性化につながる

――最後に、㈱洋建築企画様の今後の事業の展望などについてお聞かせ下さい。

清水 昨年の建築基準法の改正により、木造3階建てで準耐火構造が可能となるなど、木造建築物の裾野は更に広がってきています。実際の現場と法律との整合性を図りながら、木造の良さをいかに引き出していくか、今後も知恵を絞っていきたいと思います。

山口 建物は人と人が出会う、あるいは人と人を引き合わせるものです。地域において、どれだけ良い出会いが生まれるかが、地域の活性化という観点では重要と言えます。ですから、こうした機会を創出する建物の設計を通じて、街づくりに貢献し、地域の活性化に寄り添っていきたいというのが、当事務所が目指しているところです。

――本日はありがとうございました。当社グループでは、昨年、木造建築物に関するファーストコールセンターである「木造テクニカルセンター」を新設しました。事業主様や設計事務所様などのご要望にお応えするべく、グループの総合力を生かして木造建築物の推進をサポートしています。今後もぜひ、ご活用ください。